2020.09.11

堺一文字光秀 研ぎ師紹介 渡辺編

堺一文字光秀 研ぎ師紹介 渡辺編
道具店として、職人として、使い手に最も近い存在でありたい。
堺一文字光秀は、初代田中久香が戦後すぐに堺で包丁を製造し、
難波の道具屋筋で販売して参りました。


その知識、技術、情熱は70年近くもの間上方の料理人たちに鍛えられながら、
時代、時代へと受け継がれています。


「切れ味で、つなぐ」の中でのシリーズ『職人の目線』をはじめ、
WEB上のお客様に商品紹介をしてきた研ぎ師、渡辺のご紹介です。


研ぎの事なんて遠い職人の世界だと思っていました

 1983年生まれで、包丁屋になるなんて最初は思っていませんでした。ただ、働き出した会社が2年くらいで潰れてしまって、求人広告にあった包丁を研いでいる写真と、「手に職」というワードに惹かれて入社しました。


本刃付けも修理も、砥石を8個以上使ってやります

元々小さなころから器用な方ではあったので、この世界の奥深さを知るたびに包丁や研ぎについての魅力に取りつかれていきましたね。
今の仕事は包丁を研ぐことと、WEBサイトの運営がメインです。もちろん、包丁にお客様の名前を刻み込む銘切りもやっています。いろんな仕事を同時並行でやらないといけませんが、
銘切りは一日30以上刻むこともあります。職人が丹精込めて打ち、研ぎ上げた包丁を使い手に大事に使ってもらいたいという気持ちで一本一本刻むので、力が入って指が攣りそうになりますね。


切れ味とは、いかに包丁と食材の接点を小さくできるか

包丁を研ぐ時のこだわりを上げていくとキリがありませんが、包丁と食材の接点を小さくすることを意識しています。

第一に刃先の余計な肉を研ぎ落とすこと。ただ平らにすると食材との接点が大きくなってしまうので、刃先に向かうにつれて丸みを出す「ハマグリ刃」を意識しています。

第二に研ぎムラをなくすことです。実は、最も研げていない部分の切れ味がその包丁の切れ味になるのです。

一部分だけを頑張って研いでその部分はスムーズに切れたとしても、結局最も研げていないところで食材が引っかかるためです。
また研ぎムラを作ってしまうことは、包丁の型崩れの原因にもなり結果的に寿命を縮めることになります。
ムラなく研ぐことが非常に大事ということですね。

この二つが守られた包丁は、次に研ぐ時も簡単に刃がつきます。
修理をお預かりする際も、研ぎがうまい料理人の包丁をお預かりした時は本当に研ぎ易いです。

僕自身もそう思ってもらえるような研ぎをしたいと常に考えています。


良い包丁を支えるメンテナンス

一文字の包丁はどれも素晴らしい包丁だと自信をもって言えるものばかりですが、
ただ包丁だけが良くってもだめなのです。
そこに研ぎ直しなどの適切なメンテナンスがなければその包丁の本来の良さがだけません。
逆も同じで例え研ぎが上手くできても包丁そのものがナマクラならばその研ぎの技術を生かせていません。
最高の包丁に最高の研ぎ、この二つが合わさって初めて最高の切れ味が生まれるのです。
この事をお客様には知ってもらえるよう接客させていただいています。


研ぎの悩みで多いものは

家庭用の包丁でよく聞くお悩みは「研いだのに全然切れるようにならない」です。
最近はロールシャープナーが増えた影響か簡単に研げるイメージがついてしまい、
砥石で表面をこすっただけで「研いだ」と理解される方がいます。
包丁を実際に見せて頂くと、側面に研ぎ傷がついてはいるものの
刃先まで研ぎが届いていないケースが非常に多いです。
時間はかかりますが、刃先まで研いでくださいとアドバイスします。

プロの方は幅広い質問を受けますが、その中で多いのは「包丁の形が崩れてしまう」というものです。
これは包丁の状態を見ずに、研がなくて良いところをたくさん研いでしまい形が変わってしまっているパターンが多いです。

この場合は言葉でアドバイスすることは難しいのでその場で実践を交えてアドバイスさせもらっています。


恐れずに研ぎましょう。フォローは我々がやります

包丁は研がなければどんどん悪化しますので、失敗を恐れずに研いでいただきたいです。
もし失敗してもその時のために僕たち研ぎ師がいるのです。
包丁を真っ二つに折ってしまったり、和包丁の裏すきがなくなってしまったり、再起不能なまで錆びが回ったり、
致命的になる前であればきちんと修理させて頂きます。


研ぎ師渡辺が勧める包丁は

研ぎ師としては、研いだ時に良かったもの、という目線にはなりますが
和包丁なら「白一鋼紋鍛錬」、洋包丁なら「FV10」がおすすめです。
個人的に良い包丁の条件として、刃が硬いこと、ねばりがあるか、この二点を挙げたいと思います。
この適切なねばりを出すためには良い材料を使うだけではだめで、そこに職人の優れた鍛造技術と最適な熱処理がなければ生まれません。

この二つの包丁はそれが見事に処理されていて研ぐたびに感心させられます。

砥石に関しては「煌シリーズ」全般がいいですね。
砥石は包丁以上に好みが分かれてくるものだと思いますが、この「煌シリーズ」はどれも砥石の当たりがソフトな研ぎ味で感触が滑らかなのが特徴です。

研ぎは次の番手の砥石へのつながりが大事なのですが、このシリーズは中砥石から超仕上げ砥石までのつながりが非常にいいので研ぎ上がりが綺麗に研ぎ進めて行けます。

 


切れ味が良い包丁を使うと、価値観が変わる

包丁を研ぐというのは手間も体力もいると億劫になる方も多いと思いますが、
良く切れる包丁にはそれだけの価値があります。
それを体感するために、是非一度切れる包丁を使っていただきたいです。

使った瞬間に包丁に対する価値観が大きく変わるはずです。
切れる包丁で食材を切るというのはほんとに気持ちいいですし、なにより楽しいですよ!