2020.11.17

ラ ベデュータ

ラ ベデュータ
 

包丁にこだわるお店は美味しい。

食材にこだわる飲食店が増えた中、その食材をより活かすために、料理人が行きつくのが包丁へのこだわり。包丁の質や手入れにまでこだわるお店は、例外なく美味しい。

グルメサイトのレーティングでは紹介しきれない本当に美味しいお店を、料理人の魅力を通して紹介できたら。

若くして名門、セント レジス ホテル 大阪のメインダイニング「ラ ベデュータ」にて料理長を務める駒路 和司氏にお話を伺った。






 



大阪を代表する若手シェフの歩み

まだ31歳になったばかりの駒路シェフは、数々の一流レストランを渡り歩いている。2010年に辻調グループ フランス校を卒業した後、「料理界のオリンピック」と言われるボキューズ・ドールを創設したフレンチの巨匠、ポール・ボキューズ氏の元でのインターンシップを経験。ミシュラン三つ星「HAJIME」ザ・リッツ・カールトン大阪「ラ・ベ」そしてセント レジス 大阪 「ル ドール」といずれもミシュラン常連のフレンチで経験を積み、2016年には「食の都・大阪グランプリ」でファイナリストの優秀賞を受賞。

イタリアのサンペレグリノ社主催、30歳以下の若手料理人の世界一を決める国際料理コンクール「サンペレグリノ ヤングシェフ」にて、2018年に続き、2019年のアジア地区予選のファイナリストとして日本代表の2人、8カ国のアジア代表候補の15人に選出された。

フォアグラで世界に名高いフランスのルージエ社が主催する「第3回 ルージエ レシピコンクール」でファイナリストの10人に選出されるなど着実に成果を挙げてきている。

名実ともに大阪を代表する若手シェフは、どのようなこだわりと思いを胸に腕を振るうのか。

「大学受験をせず、料理の専門学校に行きたい」

振り返ると、小さなころから漠然と料理人になる自分を思い描いていました。自然とオムライスや簡単な和食を家族に振る舞うようになり、絵を描く授業でも料理をしている自分を描いたり、小学校の卒業文集でも「シェフになる」と書いていました。

父親は車の大手メーカーに勤めていて、私が料理人になるとは思っていなかったでしょうね。「良い大学を出れば道が広がる」と進学校に進ませてもらいました。
勉強も頑張ってやっていましたが、さあ将来を考えて大学受験の準備、という段階になり「あれ、将来何になりたいんだっけ」と立ち止まって考えました。

やっぱり早いうちに料理をしっかり学びたいという思いが強くなり、両親に真剣に相談した日のことは今でも覚えています。
親は自分の気持ちを汲み取ってくれ、希望の道に進ませてくれたのですが、後から報告した学校の先生には当時強く反対されました。ありがたいことに今は応援してくれていますね。

ジャンルにとらわれず地元の食材を活かすスタイルは、辻調理師専門学校時代に学びました。

料理で成功をするのであれば、料理だけうまくなるのでなく、経営のことも勉強するべきだと思い、当時新設だった辻調理師専門学校の調理技術マネジメント学科に入りました。和、洋、中、エスニックすべて学べるので、当時の同期もフレンチから寿司店に行ったり、中華で予約を取れないくらい人気のお店を出していたりと活躍しています。

「ラ ベデュータ」もイタリアンのお店ではありますが、日本の魅力ある食材をふんだんに使用するなど和のエッセンスを取り入れており、日本のみならず、世界中のお客様からご支持頂いております。

当時勉強したことが今も活きている実感があります。





 

フレンチの礎を築いた超名門、ポール・ボキューズで学んだこと

辻調理師専門学校時代から、本格的なフレンチを志すようになり、ポール・ボキューズ注)に行ってみたいと強く思うようになりました。

注)ポール・ボキューズは1965年からその生涯を閉じるまで53年連続でミシュラン三つ星を維持し、
料理のオリンピックと言われるボキューズ・ドールを設立したフレンチの偉人による自らの名を冠したレストラン


フランスへただ行くだけではダメだと思ったので、春に専門学校を卒業し次の秋までの6ヶ月間、仕事に必要なフランス語を一生懸命勉強しました。
インターンシップの道はありますが専門学校からの推薦が必須、常にトップの成績が取れるようにたくさん勉強しました。

当時はフランス語のレシピを何度も先生のところに持っていって、解釈が間違っていないか質問していましたね。
その努力が報われて超名門、ポール・ボキューズでのインターンシップを実現させることができました。

ポール・ボキューズでは席数も多く実力のあるシェフがたくさんいたので、求められるスピードと正確性のレベルがとても高くて厳しかったです。

専門学校時代は一皿一皿時間をかけられましたが、最高の盛り付けや仕上げを限られた時間でこなさないといけない。
また、しっかり時間内で切り上げて休憩を取らないと一流ではない、という文化も日本とは大きく違い印象的でした。

当時からホールスタッフの方々含め、たくさんコミュニケーションを取るようにはしていたのですが、
そんなレベルの高い職場でも「やりたい」と手を挙げればちゃんと経験させて貰える文化が印象に残っています。

研修生にも関わらず6ヶ月の間で仕込みからスペシャリテであるルーアンクルート(スズキのパイ包み焼き)、盛り付けまで経験させてもらえました。

また、当時84歳だったポール・ボキューズの振る舞いも大変勉強になりました。
自ら調理場のチェックに回り、ゴミ箱を覗いて食材を無駄にしていないか、作業が雑になっていないかをチェックするんです。M.O.F. 注)の料理人が4人も在籍していたキッチンも、ポール・ボキューズが入ってくると雰囲気が締まるのが分かりました。

お客様の席を毎日まわり、写真やサインにも快く応じる。スタッフとのコミュニケーションもしっかり取る。研修生の僕のことも「カズ」と呼んで、よく部屋に呼んで心配事がないか聞いてくれました。こういう一人ひとりときちんと向き合うスタンスは今も心に残っています。

注)M.O.F.はフランス文化を継承する職人に授与される称号。日本における人間国宝のような立ち位置

行動を起こさずに諦めることはできません

半年の貴重な経験を経て帰国したのですが、日本でどうしても働きたいレストランがありました。「HAJIME」です。フランスに行く前に食べさせて貰い感銘を受けました。

でも、専門学校の先生に聞くと「さすがにHAJIMEは厳しい。レベルが高すぎるし、募集もしていない」と言われてしまいました。僕がフランスに行っている間にミシュランガイド 京都・大阪2010ができていて、当時オープン後世界史上最速で三ツ星を取っていたんです。でも、行動を起こさずに諦める、ということができない性格なんでしょうね。

数ヶ月先まで予約が取れないお店でしたがフランスから帰国した次の日に予約を取っていたので、「どうしてもHAJIMEで働きたい。○月○日に予約を取らせて貰っている」と手紙を書いたんです。そうすると、米田肇さんが自ら当日手紙を持って席まで来てくれた。「さすがにここまでする人は珍しい」と言われ、たくさんの一流料理人の希望が殺到している中、HAJIMEで働かせて貰うことになりました。改めて行動を起こす大切さを身を以て知ることができましたね。

 

違ったジャンルでの一流フレンチを経験し、セント レジス ホテル 大阪のメインダイニング「ラ ベデュータ」に

ポール・ボキューズも厳しかったですが、HAJIMEのスタイルは違った意味でレベルが非常に高かったです。100種類以上の野菜を使ったスペシャリテの部門を担当させて頂いたり、緻密な計算に基づいて最高の料理を提供する。重厚なフレンチから、前衛的な最先端のフレンチ。1年半の間、全く別の分野での一流を経験させて貰ったことは自分にとって大きな経験になりました。

もう少し間口の広いビストロスタイルである「ル ドール」の当時の料理長は非常に気さくで、スタッフやお店の雰囲気が非常に素晴らしく、私も提案したたくさんの料理を採用してもらえました。ザ・リッツ・カールトン大阪の「ラ・ベ」では、一流ホテルにあってホスピタリティの大切さと日本の食材を巧みに使用した伝統的で重厚、かつ華麗なフランス料理を学ばせて頂きました。

フレンチの名だたる名店で働かせて頂く中で、共通する要素は「一人ひとりと向き合うことの大切さ」です。今はセント レジス ホテル 大阪のメインダイニングで料理長を務めさせて貰っていますが、お陰様で「一流レストランだから来る」という方だけでなく、「駒路さんのお店だから来たい」と言ってくださる方も増えてきました。「人と人との関係を大事にしたい」という思いを大切にしているのでこれが何より嬉しいですね。

包丁の一流といえば、「堺一文字光秀」だった

20代の頃から、一流のものに触れることは強く意識していました。私にとって包丁の一流は「堺一文字光秀」だったんです。

お店に足を運んで、この包丁(スウェーデン・ステンレス マイカルタハンドルシリーズ)を手に取ったときに「これだ」と思いました。スタイリッシュな見た目だけでなく、刃の鋭さ、バランスも素晴らしかった。実際使ってみても、他の包丁はいくら鋭い刃をつけても切れ味が落ちるのが早い。堺一文字の包丁は切れ味がなかなか落ちないですね。

フランスでは大切にしていたこのシリーズのペティナイフが残念ながら盗まれてしまったのですが、そのくらい海外の料理人の間でも日本の包丁への憧れが強かったのですね。毎日、包丁を出すたびにいろんなコックが見に来ました。もっと世界に日本の包丁のクオリティの高さを発信するべきだと思います。

「HAJIME」さんの料理に対する緻密なアプローチに影響を受けた部分もあるのですが、切れ味の落ちた包丁は言語道断だと思います。
栄養価、鮮度、口当たり、仕上がりの見た目、全てにおいて切れ味が良い包丁を使ってこそ実力が出せます。せっかく新鮮で良い食材を使っているのに、包丁が悪くてその良さを引き出せていないお店を見るともったいないと思ってしまいますね。

食材を扱うすべての段階で包丁を使うので、質の高い料理とは切っても切れない関係だと思います。








※撮影前に購入頂いた、煌 青一鋼 黒呂柄 出刃包丁 

地元の良さを最大限に引き出し、いつ来ても楽しめるおもてなしを

たくさんの名店で学ばせて頂き、私が最も大切にしたいことは「人と人とのつながり」です。
コロナショックによって2ヶ月半の間お店を閉めることになってしまいましたが、その間にたくさんの産地を訪れました。

生産者様と会ってお話することで、質の高い素材の新たな側面を見つけ、より食材を料理に活かせると考えています。生産者様へのおもてなしの意味を込めてレストランにご招待もしています。毎日大変なお仕事をされている中で、手間ひまかけて育てた食材を「ラ ベデュータ」で美味しそうに食べるお客様を思い出して頂けると嬉しいなと思います。

食材の本当の旬が3ヶ月もつことはほとんどないので、私はお店で月ごとに変わるコース料理を提供するようにしています。もちろんその間もレストランでのイベントなどもありますので決して楽ではありませんが、「ラ ベデュータ」を何度でも訪れたくなるお店にして食の都、大阪をより魅力ある地域にしていきたいと思いますね。

いつかコロナが終息した時に世界各国の方々がお戻り頂ける日を心待ちに、私が今やるべき事を全うしていきます。





 


LA VEDUTA(ラ ベデュータ)


〒541-0053 大阪市中央区本町3-6-12 セント レジス ホテル 大阪 12F
ご予約・お問い合わせ:06-6105-5659

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