包丁研ぎ・修理メンテナンス
お客様から昔自分が結婚したときに購入した包丁や亡くなった親の形見の包丁など数十年以上も愛用されてきた包丁を預かる時があります。それほど優れた包丁は一生ものになるだけでなく、次の世代へも引き継がれるほど永く使う事が出来る道具です。
しかし包丁について正しい知識があまりないまま使用することで大事な包丁が一瞬でだめになってしまうこともあります。そうならないために、包丁がだめになる原因を知り、それに応じた対処方法を学ぶことが大切です。
大切な包丁を長く愛用するためのお手入れの仕方をプロが解説します。
錆びる原因
包丁に使用される鋼材は、鋼(ハガネ)とステンレス鋼があります。鋼は非常に錆びやすく、濡れたまま放置するとすぐに錆びが発生します。
一方、ステンレス鋼は、錆びにくい鋼材です。しかし、塩分や酸性の強い食材を切った後などに、しっかりと洗い、拭き取らなければ、虫食いのように錆びてしまいます。
錆びる原因
- 包丁に汚れが付着している
- 洗い終わったあと、十分に拭き取れていない
- 塩分や酸性の強い食材を切ったあと、すぐに洗い落としていない
- 金属同士の接触によるもらい錆び
- 漂白剤などを使用する
上記のように様々な原因が考えられますが、刃に水分が残っていることが原因で錆びることが特に多いです。そのため、使用中も水気を拭き取り、使用後は湿気が少ない場所に保管することが大切です。
ステンレス鋼の「孔食」という錆びにご注意を
ステンレス鋼の包丁は錆びづらく、お手入れがしやすいですが、全く錆びないわけではありません。ステンレス鋼の包丁でよく見られるのが「孔食」という錆び方です。孔食は非常に厄介で、膜が部分的に破壊されることによって発生するステンレス鋼の錆びが、金属の中へと浸透及び貫通していきます。
孔食の錆びが起きてしまうと、元通りに修理することができません。そのため、ステンレス鋼の包丁でも日々のお手入れが必要です。
錆びを防ぐお手入れ方法
- 使用後に、刃に付いている汚れを食器用中性洗剤できれいに洗い落とします。
(ぬるま湯で洗うと刃が乾きやすくなります。) - 乾いた布で水分を十分に拭き取り、自然乾燥もしくは風通しの良い場所へ保管します。
- 長期間ご使用にならない場合は、刃物用油(椿油がおすすめ)を布に含ませて刃全体を油拭きし、新聞紙などに包んで、湿気の少ない場所へ保管します。
(サラダ油は刃物油より乾きやすく、酸化しやすいため、長期保管のお手入れには向いていません。)
錆びの取り方
当店では錆び取り専用の「ミラクルクリーン」を使用して錆び取りをしています。ミラクルクリーンは研磨剤の入った消しゴムのような道具で、錆びた個所を磨くと広範囲の錆びでも取ることができます。包丁の刃には研磨した筋があるので、その筋に沿って磨くと綺麗に錆びが取れます。
その他に、耐水ペーパーやクレンザーを使用して錆びを取ることができます。
食器洗浄機のご使用について
食洗機(食器洗浄機)の使用は以下の理由でお勧めしていません。
1)包丁の刃が錆びる可能性がある
手洗いの時に使用する食器用中性洗剤とは違い、洗浄力の強いアルカリ性洗剤や酸性洗剤を使用します。そのため、錆びやすい鋼の包丁だけでなく、錆に強いステンレス鋼の包丁でも錆が出る可能性があります。
2)柄が劣化する
包丁の柄には天然木、圧縮合板など木材が多く使用されています。
食洗機では非常に高温のお湯で洗い、乾燥させるため、急激な温度変化に弱い木材の柄は傷んでしまいます。
また強力な洗浄力の洗剤も、柄の劣化の原因となります。
3)刃が欠ける可能性がある
食洗機の中で、同時に洗う食器や調理器具と包丁の刃先がぶつかって、刃が欠ける恐れがあります。
包丁が切れなくなる原因
包丁は使い続けていくうちに、だんだんと切れ味が落ちていきます。包丁が切れなくなるのはなぜでしょう。
1)刃先が摩耗して丸くなるため
切れなくなった包丁の刃先を、爪の上に軽く当てて滑らせると、つるつる滑るだけで全く引っかかりません。これが包丁が切れない状態です。
2)硬いまな板を切り続けるため
普段あまり意識をしていないかもしれませんが、食材を切るときにまな板も同時に切り続けています。しかし、まな板が切れないのは食材と比べてまな板が非常に硬いからです。そのため柔らかい食材だけが切れるのですが、包丁は常に硬いまな板の上で摩耗し続けているのです。
柄のメンテナンス
包丁の刃のお手入れと同様に柄のメンテナンスにも気を付けると、より長く大切にご使用いただけます。
柄に水が入り込んで知らない間に錆びが進み、腐食してしまう場合があります。
和包丁の柄
和包丁は中子(柄部に入っている刀身)を柄に差し込んで固定したシンプルな仕様です。柄の隙間から水が入り込むことで、中子が錆びて腐食が進むことがあります。
そのため、差し込み口の隙間から水が入らないようにすることが大事です。
洋包丁の柄
洋包丁は仲子の両側から木材を挟んで鋲止めしており、和包丁より耐久性が高いですが、継ぎ目に水気が残りやすく錆びる可能性があります。そのため継ぎ目の箇所をしっかり拭いてください。