味でつなぐ - 料理人探訪Vol.17 法善寺浅草

包丁にこだわるお店は美味しい

食材にこだわる飲食店が増えた今、料理人が行き着くのが包丁へのこだわり。 包丁の切れ味にこだわるお店は例外なく美味しい。

「味でつなぐ 料理人探訪」は、グルメサイトのレーティングでは伝えきれない、本当に美味しい店を紹介するシリーズ。

包丁から見えてくる技術、哲学、そして食へのまなざし。 料理人の内面に踏み込み、本質を探る。

第17回目は、難波の法善寺横丁エリアにある「法善寺浅草」。店主の辻 宏弥氏にお話を伺った


祖父から始まった法善寺浅草

1936年に、当時魚屋だった祖父が、繁盛していたフグ料理店「づぼらや」を見て、「俺もやったるぞ」と一念発起したのが始まりです。

もともとは通天閣のある新世界にお店を構えていましたが戦争で焼けてしまい、1948年から現在の法善寺・水掛け不動の真向かいで営業しています。

「浅草」という屋号は、庶民的な繁華街である新世界が娯楽の中心地・浅草に似ていたこと、そして当時、「銀座寿司」だとか「新宿街」など、東京の地名を屋号にするのが流行っていたことから祖父が名付けました。

実は店の住所が「中央区難波1丁目1番地」なんです。そんな場所に東京の地名っていうのもなんですが、創業以来から変わらず、今日までやってこられました。

昔、道頓堀には芝居小屋が多くあったので、この辺りは役者さんが食事をしたり休憩したりする場所として「芝居裏」と呼ばれ、発展していったそうです。

ただ、ここは法善寺のお寺の土地なので、行政が入らず、下水の整備が遅れていたり、道の舗装も十分ではありませんでした。

そこで1982年頃、当時の南海電鉄の社長さんが中心となり、駅で使われていた石を寄付してくださったことで現在の法善寺の石畳が完成しました。

すると雰囲気がぐっと良くなり風情あふれるエリアへと変わるにつれ、個性的な店主たちが面白い店を始めるようになり、今の法善寺横丁となっていきました。

たまに料理屋の集まりで京都へ行くのですが、京都は駅を降り立って店に向かうときから、どこか特別な空気感がありますよね。

大阪では店の玄関をくぐるまで、その世界観が見えないのが普通だと思うのですが、ここ法善寺あたりだけは一歩足を踏み入れると違った雰囲気が味わえる。そんな場所で商売させてもらっていることを本当にありがたいと感じています。

堺の包丁が生んだ、関西の食文化

冬はフグ、夏は鱧(ハモ)とすっぽんをメインにしています。

「梅雨の雨を受けたら鱧の骨切りの音が聞きたい。」という言葉があるほど、大阪の人にとって鱧は特別な食材です。

大阪には愛染さんから始まり住吉さんで終わる夏祭りがありますが、祭りでお客様に振舞う料理といえば鱧、近所の方に出すのはタコと相場が決まっていた。今ではタコも立派な高級品ですが(笑)

鱧は高級品である上に料理に手間もかかるので、お客様をもてなすのにうってつけだったんですね。

鱧は穴子や鰻と同じ形状ですが、大きく違うのは厄介な硬い骨です。それをなんとか食べられるようにと生まれたのが骨切りの技法です。

なぜ大阪・京都でこの技法が発展したのかといえば、硬い骨をも断ち切れる堺の包丁があったから。

大阪で料理屋をしているとこんな風に、堺の包丁があったから関西独自の食文化が花開いたんじゃないかなと実感することがよくありますね。

イカリ気を損なわないよう手早く捌く

鱧は淡路島と徳島のものを使っています。
非常に凶暴な魚で、泳いでいるところを締めるところから緊張感が走ります。

魚屋さんが首を落とし、背骨の中にある延髄(神経)を抜く処理をしてくれますが、ここをうまく扱わないと身に血が回ってしまいます。

新鮮で活きのいい状態の魚のことを「イカリ気がある」なんて言ったりしますが、そのイカリ気を損なわないためには、捌く際に何度も包丁を入れず、手早くすることが大切です。

腹骨を取るのに柳刃包丁を使うなど、捌き方は人によって様々ですが、私は出刃包丁一本で捌いてしまいますね。

花が開くような美しい骨切りをするには、感覚と包丁の重さが重要です。骨切包丁の重さで切っていくので、包丁は軽く落とさない程度にそっと持ちます。

皮が見えるくらいまで骨切りをしないと口に骨が残るので、思い切りというか、度胸がいりますね。こればかりは実践と経験を積まないと中々上達はしないものだと思います。

 

包丁仕事でふわりと花開く身

当店では、9種の前菜から始まり、お造り、落とし、焼き霜、揚げ物、鱧しゃぶ鍋と続くコースをご用意しています。

揚げ物といえば天ぷらが定番ですが、私の場合は大阪料理会※①で学んだ技法を活かし、少し趣向を変えた一品をお出ししています。

鱧は白身で淡泊なイメージがありますが、実は骨からも非常に良い出汁が取れます。その出汁に身を落とすと、ふわりと花が咲くように開く、それが当店の自慢の鱧しゃぶです。

※①大阪料理会:大阪の食材や調理法について、料理人同士が学び、研鑽を深める日本料理の勉強会。 地域を代表する割烹店や料亭が集い、毎月発表や試食を通じて意見交換を行っている。

大阪料理会の一員として大阪万博でも登壇した

手絞りにこだわる自家製ポン酢

祖父が柑橘で有名な和歌山・有田の出身ということもあり、店で出すポン酢は昔から自家製です。

果汁がたっぷりで、香り豊かな柚香(ユコウ)という柑橘を使っています。機械で絞ると皮のえぐみが出てしまうため、手絞りにこだわっています。
私も子供の頃から柑橘の取れる季節になると、手が黄色くなるまで手伝ったものです。

大阪には「ちり鍋」がありますよね。いわゆる水炊きです。長年、変わらない製法で作り続けてきた自家製ポン酢で味わうフグのちり鍋は、当店にしか出せない味だと思っています。

積み上げた技術は、決して失われない

私が大学を卒業した時代はいわゆる氷河期で、同級生の半分以上が就職浪人していたような時代です。幸いなことに私は銀行に就職が決まり、次男だったこともあってお店を継ぐこともなく、一生銀行で勤めるものと漠然と思っていました。

しばらくして法人営業に移り、企業の社長と会う機会が増えました。そこで「辻君の実家はそんなに長いこと商売をやってるの、それはすごいことやで」と、よく言われていましたね。そんな折に、家業を継がないかという話が出て、やってみようと思ったんです。

銀行時代は頑張って営業成績を積み上げても半年でリセットされ、また0から積み直すという繰り返しに少し疲れを感じていました。

その点、料理人という仕事は一度身に付けた技術は決して失われない。そこが面白いところだと思います。

例えばふフグの皮引きはトゲを取る作業ですが、きちんと技術を伝えれば若い料理人でも出来るようになるんです。あとはやる続けるだけですから、なるべく料理へのハードルを下げてあげたいですね。

今後の目標ですか?

大阪で美味しいものを食べたいとなったとき、フグや鱧をあげる方は多いと思います。その時「法善寺浅草」が真っ先に頭に浮かぶような、そんな店でありたいですね。


法善寺浅草

https://houzenjiasakusa.gorp.jp/

住所

大阪府大阪市中央区難波1-1-12

営業時間

ディナー 17:00~22:30
(L.O.21:00)

ランチ 12:00~15:00
(L.O.13:00)

ランチ営業は前日までの予約のみの営業

定休日

不定休

 

YouTubeでは「味でつなぐ - 料理人探訪Vol.17 法善寺浅草」名物の鱧の調理風景もたっぷり収録しています!ぜひご視聴ください。

取材で登場した包丁はこちらのページからご覧ください。

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