味でつなぐ - 料理人探訪Vol.12 日本料理 雲鶴

包丁にこだわるお店は美味しい

食材にこだわる飲食店が増えた今、料理人が行き着くのが包丁へのこだわり。 包丁の質や手入れの行き届いた店は、例外なく美味しい。

「味でつなぐ 料理人探訪」は、グルメサイトのレーティングでは伝えきれない、本当に美味しい店を紹介するシリーズ。

包丁から見えてくる技術、哲学、そして食へのまなざし。 料理人の内面に踏み込み、本質を探る。

 

第12回目は、天満にある日本料理「雲鶴」。

“大阪料理”の特徴である、鮮度の良い海・山・里の食材にこだわり、「始末の心」を表現する一方、食材の研究者としての一面を持つ店主、島村 雅晴氏にお話を伺った。

 


和歌山の海と、母との日々が料理人の原点

生まれが和歌山県の海に近い街だったので、小学生の頃、毎週のように釣りに行っては魚を自分で捌いて料理をしていました。

元々、母親が料理をするのを手伝ったり、一緒にお菓子を作ったりすることも好きでしたね。

辻調理師専門学校を卒業した後は、大阪の北新地にある和食のお店で9年間勤めたのち、独立しました。

ずっと自分のお店を持ちたい、起業したいという思いがすごく強かったので、その準備ができたタイミングだったと思います。

 

伝統野菜と大阪料理との出会い

最初は、北浜と淀屋橋のちょうど中間あたりで「雲鶴」をスタートさせました。 和食をベースにしながらも、創作の要素を取り入れたスタイルです。

独立後は、新たな食材を求めてセミナーなどにも足を運びました。 そうするなかで大阪にも様々な伝統野菜があることを知ったんです。

そのうちに料理人達が集まる「大阪料理会※①」という会が発足し、私も参加するようになりました。 料理人たちが集い、大阪の食材や調理法について学び合い、腕を磨く場です。

そこで初めて、「大阪料理※②」というジャンルがあることを知りました。

もちろん、ただ伝統野菜を使えば大阪料理になるというものではありません。 大阪という土地でお店を構えているので、地元の魅力を発信していきたいという思いがあります。

 

※①大阪料理会:大阪の食材や調理法について、料理人同士が学び、研鑽を深める日本料理の勉強会。 地域を代表する割烹店や料亭が集い、毎月発表や試食を通じて意見交換を行っている。

※②大阪料理:大阪という地の利を活かし鮮度の良い海山里の食材を料理(割烹)するスタイル。 食材第一、喰い味、日本土産の食材、昆布出汁、始末の心が特徴。

引用元:大阪料理会HP

 

──雲鶴名物、「野崎焼き」について教えてください。

18㎝前後の鯛を、頭も骨も鱗も全て召し上がって頂けるように仕上げたものです。 表面はサクッと香ばしく、身はふわっと仕上げています。 柔らかく仕上げるために、仕込みの段階で長時間火を通すのですが、そうすると水分が飛んでしまいます。 それを防ぐために菜種油を使用するんです。

──「野崎焼き」の由来は?

大阪の大東市にある野崎は、昔から菜種の一大産地です。 そこで取れた菜種油を使用しているので「野崎焼き」と名付けました。

──ほかに特徴的なメニューはありますか?

お菓子にも工夫を凝らしていますね。

冬場であれば天王寺かぶらで、かぶらの形のお饅頭を作ります。 それを米糠を深入りしたもの中に埋めておいて、お客様自身に掘って収穫するような気分を味わっていただいています。

そうすることで、伝統野菜である天王寺かぶらのご紹介なんかをするきっかけになりますし、お客様にも楽しんでいただきながら、興味を持ってもらえます。

料理人の枠を超えて
研究者としての一面を持つ異色のキャリア

──島村さんは料理人の枠を超えて、研究にも携わっていると伺いました。その内容について教えていただけますか?

もともと、食の最先端技術であるフードテックに興味があり、さまざまな文献を読んではいましたが、実際にその分野に関わる機会はありませんでした。

そんな中、動物の細胞を培養して作られる「培養肉」が、今後市場に投入され、広く普及していくのではないかという予測を知り、面白そうだなと思っていました。

ある時、バイオテックに関連する催しに参加した際に、培養肉を研究している大学教授と知り合い、そのご縁で研究室を訪問させていただきました。

料理人がこのような研究の場に来ることは珍しかったようで、研究者の方々に面白がっていただきました。

当初は、まず培養肉というものを食べてみたと思っていたのですが、大学で作った培養肉というのは、大学の倫理審査などのハードルがあり、そもそも食べることができない。

それならばバイオテックの技術を持つ企業と組んで、共同で研究を進めようと「ダイバースファーム」という会社を立ち上げたんです。料理人としての視点を活かしながら、培養肉の可能性を探る研究に取り組んでいます。

もう一つの活動は、未利用魚の研究です。

普段、天然の魚を中心に使用していますが、水産資源が減少している今、これまで使ってこなかった魚や養殖魚も積極的に活用していかないと、持続可能な食の未来を維持するのは難しいのではないか――。

そんな思いから、同じ志を持つ料理人仲間と「RelationFish」という会社を設立し、未利用魚の研究と活用を進めています。

──未利用魚とはどんな魚でしょうか?

たとえば「アイゴ」という魚は、主に南の海に生息しており、沖縄や鹿児島では一般的に食べられている魚です。

しかし、近年の海水温の上昇により、その生息域がどんどん北上しています。そのため、これまでアイゴを食べてこなかった地域でも水揚げされるようになっていますが、食文化がないために、ほとんどが食べられずに廃棄されてしまっているのが現状です。

また、アイゴは草食性であることから、ワカメや海苔の養殖場を荒らしてしまうという問題も。

そこで、草食性であることを逆手に取り、廃棄される野菜くずや、オレンジジュースの搾りかすを餌として活用することができれば、環境に優しい新たな養殖の形が実現できるのではないかと考えています。

――料理人が研究の分野で活動することは、かなり珍しいですね?

子供の頃から科学に興味があったので、科学者や研究者になりたいなと思っていました。

同時に料理人にもなりたかった。 全部やってみたかったんです。

料理人になったのは、食の分野に進めば、科学にも携わることができると思ったからなんです。

なので今、料理人をしながら、持続可能な食材や培養肉の開発に携わることは自分の中では自然な流れでした。

――料理人と研究の両立で何か苦労は?

苦労している点を挙げるとすれば、やはり「時間」です。 限られた時間の中で、複数の活動を両立させることが大変ですね。

バイオテックに関しては、まだまだこれからの分野のため、基礎の研究を積み重ねている段階です。

自分たちで新しいものを作り上げていくことは、大変なこと以上に、楽しいことでもあります。

包丁には手に馴染む一体感を

堺一文字光秀の包丁は薄刃牛刀、鱧切り包丁を愛用しています。

道具屋筋商店街によく足を運んでいるなかで、自然と 一文字さんの包丁を使い始めました。 包丁には、切れ味は勿論ですが、手に馴染む一体感などを求めています。

基本的に2・3日に一回は必ず研ぎますね。

「美味しい」を入口に、持続可能な食の未来を伝えたい

今後の展望としては、「持続可能な食」というテーマをこれから発信していきたいと考えています。

ただ、そうした話ばかりを前面に出してしまうと、せっかく料理を楽しみに来てくださるお客様にとって、少し説教くさく感じられてしまうかもしれません。

食を楽しんでいただくことを第一にしながら、その中でさりげなく、持続可能な食や環境への配慮についても感じてもらえるような、そんな場をつくっていけたらと思っています。


日本料理 雲鶴 

※完全予約制

予約・問い合わせ 080-1414-1967

住所

大阪市北区天満1−18−17

営業時間

ランチ : 11:30 – 14:00
ディナー: 17:30 – 22:00

定休日 不定期

「味でつなぐ - 料理人探訪Vol.12 日本料理 雲鶴」は動画でもご視聴頂けます。

島村氏愛用の包丁はこちら。

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