味でつなぐ - 料理人探訪Vol.14 JAZZ BERRY

包丁にこだわるお店は美味しい

食材にこだわる飲食店が増えた今、料理人が行き着くのが包丁へのこだわり。 包丁の切れ味にこだわるお店は例外なく美味しい。

「味でつなぐ 料理人探訪」は、グルメサイトのレーティングでは伝えきれない、本当に美味しい店を紹介するシリーズ。

包丁から見えてくる技術、哲学、そして食へのまなざし。 料理人の内面に踏み込み、本質を探る。

第14回目は、堀江にある「JAZZ BERRY」。JAZZ BERRYと合わせて3店舗を展開する店主の前田 耕平氏にお話を伺った。


幼少期の美味しい思い出

大阪出身です。料理人なったきっかけは、子供の頃からオカンに料理人になれってなぜか言われ続けてたんですよね。三人兄弟の末っ子だったんで、よく料理も手伝わされていたんですけど、それがあまり苦でもなくて。

両親も食べることが好きだったので外食も結構多かった。祖母が良いサバを買ってきて酢締めして食べさせてくれたり、今から思えば子供の頃から良いものを食べさせてもらっていましたね。

その影響もあって美味しいものを食べたいという欲求は、人より強くなったのかもしれません。

経験するごとに学びを得た

工業科に進学したので、一度工場に勤めたんですけど全然合わなかったんです。もともと喋るのが好きなので居酒屋のキッチンでアルバイトすることに。盛り付けも、仕事をこなすことも楽しくて、そのまま働かせてもらっていました。

居酒屋って誰でも気軽に来られるので、色んな方と会えるのも嬉しいんですよね。自分でやるなら居酒屋が良いなと思っていました。

その頃、たまたま飲みに行った居酒屋さんが自分の理想にぴったりだった。ここで働きたいと思って、アポイントもなく履歴書だけ持って飛び込んでみた結果、雇っていただけたんです。

入ってみると、めちゃくちゃ厳しかった。でもそこでは居酒屋のベースとなるものを教えてもらいました。その後、魚の知識をもっと得たくて大阪中央卸売市場の魚屋に勤めました。魚についてはもちろんですが、今の経営にも繋がる「商売」についての学びもすごく大きかったですね。

あとはミシュランの星付きレストランも、少しだけ経験させてもらいました。

低単価、高単価、魚屋と働いてみて、じゃあ自分が店をするなら何で勝負するのか、規模、単価、どんな店をいつまでにオープンさせるか、しっかり考えられたのが今に繋がっていると思います。

独立と多店舗展開、きっかけはコロナ禍

独立して初めに店を構えたのは難波中の七坪程度の小さなお店でした。だんだんキャパが物足りなくなり、今の本店がある心斎橋のお店に移りました。

そこから多店舗展開するきっかけは実はコロナなんです。コロナ禍の頃は色々な規制があったので、店のスタッフが働けずに余るという現象が起きました。でも給料は払わなあかん、じゃあ働く場所を増やそうとなって2店舗目を出しました。コロナ禍に、あえて攻めてみたんです。

3店舗目の「JAZZ BERRY」は赤いテントのテラス席が目印です。僕が音楽を好きなこともあってピアノを置いています。美味しい料理を食べに来たお客様が「生演奏もあるやん」って楽しんでもらえるのが良いかなと思っています。

大阪中央卸売市場に太いパイプがあるので、買い手が付かなかった質の良い魚を、優先的に安く回してもらっています。それをお手頃価格でお客様に提供できるのが強みですね。

魚にはもちろん自信があるので、お造りも召し上がっていただきたいですが、玉子サンドだとか、フィッシュアンドチップスもおすすめです。

道具の手入れは仕事の基本

柳刃包丁と出刃包丁は一文字のものを使っています。道具屋筋商店街に行った時に堺一文字光秀で包丁を購入したのが使い始めたきっかけですね。最初は店員さんに相談しながら鋼材や長さを提案していただきました。

古い考えかもしれませんが、道具の手入れができて、丁寧に扱える子は仕事もきっちりしています。逆に道具の手入れができていない子は仕事が粗かったり、作業の段取りが悪いことが多いですね。

道具の手入れは基本だと思っているので、自分自身も意識するようにしています。

切れ味が旨味を左右する

魚はすばやく内臓や鱗の処理をすることが重要になってきます。そこで切れない包丁を使うとスピードも落ちますし、身を潰してしまいます。切れ味の良い包丁は魚に負荷をかけずにスッと切れるので、旨味を逃さず処理できるんです。

また刺身を引くときもスパッと切れないと食感が悪くなってしまいます。お客様がこの一切れを口に入れた時、どう噛んで咀嚼して飲み込むのか。

厚めに切って、よく嚙んで味わっていただけるよう切り方にはかなりこだわっています。

美味しさに+αを届けるチーム作り

飲食店って美味しいは当たり前で、そこに+αで何ができるかだと思うんです。

スタッフにも常々言っているんですが、お客様に楽しんでもらうことって料理だけじゃないと思うんですよね。喋ることに原価はかからない。接客も、気遣いひとつもそう。「これ今作り立てなんで一口食べてみませんか?」っていうサービスも嬉しいじゃないですか。自分がやってもらったら嬉しいことを常に考えています。

そのためにもスタッフの教育は絶対に疎かにできない。僕一人の力は限られますが、スタッフが10人いたらできることが格段に増えるからです。

僕はスタッフに、店の経営の話をよくするんです。社員、アルバイト、年齢も関係なくですね。10代のアルバイトの子にも話します。

「なんで私にそんな話するんやろう?」と最初は思うかもしれないですが、またお客様に来てもらうためにどうしたら良いかな?と、段々と皆が経営者側の目線で動いてくれるようになるんです。

また、僕はスタッフに「じゃあそれで。」ってお客様にも僕にも言わせてほしいって伝えています。

例えば、お客様にメニューを勧める際に、しっかりと料理の魅力を伝えるプレゼンをして、お客様に「じゃあそれで。」と言ってもらえるように考えてやってみる。

仕事に関しても、問題点があれば改善方法を考えて提案してもらいます。僕が納得したら「じゃあそれでやってみよう。」って言えるんです。

社員にもアルバイトにも垣根なく権限を与えることで、皆が責任を持って仕事に取り組んでくれる。そして、そういうスタッフには積極的に時給を上げるようにしています。

 

時代というスパイスを取り入れる

どの飲食店にも共通することですが、やっぱり物価高の影響は大きいです。物価が上がれば一品の値段も上がります。そうなると今までの単価で来てくださっていたお客様は来にくくなる。

じゃあどうするかを考えた時に方法は限られていて。単価を上げてより質の良い料理とサービスを提供するか、インバウンド客を積極的に取り込むか、そのどちらかではないでしょうか。

これは飲食業に限らず何事にも言えることですが、「時代」というスパイスを取り入れないと経営は崩壊します。

昔はネット予約なんか「ドタキャンされるだけや。」って誰も信用していませんでしたが、今では主流になっていますよね。僕が考える「時代のスパイス」とは、こういう変化を柔軟に取り入れることです。

食事以上の価値を、飲食店ができること

飲食店で食事すること自体が、これからは「嗜好品」というカテゴリーになっていくと思うんです。JAZZ BERRYで生演奏を聴きながら食事することも「嗜好品」です。

嗜好品って絶対必要なことではないんですよね。家で食事はできますが、わざわざお店に来てお金を払ってまで体験したいことは何なのか。

僕たち飲食店は、それをどれだけ提供できるのか、今後も考え続けていきたいです。


JAZZ BERRY

https://www.instagram.com/jazzberry_kitahorie2024/

住所

大阪市西区北堀江1丁目9‐18ベルヴォーグ北堀江102

営業時間

12:00~23:00

定休日

なし

系列店

海鮮居酒屋まえだ屋

https://www.instagram.com/maedaya1206?utm_source=ig_web_button_share_sheet&igsh=ZDNlZDc0MzIxNw==

ワインを得たさかな屋(まえだ屋別邸)

https://www.instagram.com/wine.woetasakanaya?utm_source=ig_web_button_share_sheet&igsh=ZDNlZDc0MzIxNw==

 

「味でつなぐ - 料理人探訪Vol.14 JAZZ BERRY」は自慢のお魚メニューの調理風景もたっぷり収録!ぜひご視聴ください。

堺一文字光秀の出刃、先丸タコ引き包丁はこちらから。

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