2023.02.24

ルポンドシエル Vol.2

ルポンドシエル Vol.2
 

包丁にこだわるお店は美味しい

食材にこだわる飲食店が増えた中、その食材をより活かすために、料理人が行きつくのが包丁へのこだわり。包丁の質や手入れにまでこだわるお店は、例外なく美味しい。グルメサイトのレーティングでは紹介しきれない本当に美味しいお店を、料理人の魅力を通して紹介する、「味でつなぐ 料理人探訪」
第4回目に取り上げた「ルポンドシエル」が、大正の名建築をあとに、新しい挑戦をすることとなった。
※移転前の記事はこちら

総料理長を務める小楠修氏の料理人人生における、葛藤や挑戦を伺った。

13年連続ミシュラン獲得の名店に訪れた転機

2年前に移転の話がありました。元々オーナーである大林組から淀屋橋の大きなプロジェクトにあたって新しいお店を作る、その料理長を改めて依頼頂いた、という流れです。

オーナーからすれば移転リニューアルでゼロから見直すタイミングです。
シェフごと替えるという選択肢もあったはずなので改めてお声掛けを頂き、身の引き締まる思いでした。


現代的なビルの前で通行人と同じ目線に設置されたアントニー・ゴームリーの彫刻作品は、この地の歴史と未来を見通しているかのよう。

「大阪の本格フレンチ」という看板

歴史のある名門のフレンチ、という看板を背負っているつもりでやっていました。元々リヨンで一つ星の名店、ギィ・ラソゼと提携しており、シェフを毎年招聘するなど、本場の本格的なフレンチを紹介していた。ただ、その提携が解除されることになったんです。

当然不安もありました。歴史のあるお店の大きな転換点であること、これまではラソゼさんの看板があったが、これからは自分が責任を持ってお店を作っていかなければならないと。

「本物のフレンチを紹介する」という気持ちでやっていたので、ずっとバターとクリームを中心に使った、伝統的なフレンチレストランであろうとしていました。フレンチにとってバターとクリームは、日本で言うと味噌や醤油。なくてはならない要素です。ただ、それまでにもお客様が「美味しいけど最後まで行くとちょっと重い」とか「メインに行く前にお腹いっぱいになる」と言ってくださったことがあった。自分の中でそのスタイルをどこまで守り続けるのかという葛藤がありました。

伝統と向き合う葛藤

そんな中一つ転換点がありました。提携でフランスから来たシェフが、クリームをほとんど使わない。聞いたら、「私の祖父はイタリア人で料理人だった」と言っていました。お客様も喜んでいた。食材に目を向けると、過去には考えられないような高い品質や鮮度の食材が、流通の進化で仕入れられるようになっていた。味付けベースでなく、素材を活かす方向の料理が提供できるようになっていたんです。

社長に「伝統的なフレンチという看板」について葛藤があると話した時に、「小楠さんの料理をやれば良いんだよ」と言ってくれていた。移転の際に総料理長のお話をいただいた時にそのことを思い出しました。

また、提携していたシェフのラソゼさんが移転に対してすごく応援をしてくれて、新店でもフェアをぜひやりたいと言ってくれていて、背中を押されています。

日本人がフレンチの世界で大活躍している時代になってきている。色々な点が線として繋がって、本場のフレンチを直輸入しているという価値にこだわりすぎる必要は無いと思うようになってきました。

大阪から発信する「対面本格フレンチ」×「薪」

そこからお店のコンセプトを固めていくのですが、カウンタースタイルを採用しフレンチの様式としては非常に斬新な形になったと思います。世界に数店舗はできてきて、少しずつ新しい流れを産んではいます。しかしスタイルと呼ばれるほど定着はしていません。

もうひとつぜひ提供したかったのが、中央の薪窯です。薪はコントロールが難しいのですが繊細な火入れができ、料理人の個性を表現しやすい熱源です。大阪には本格的なフレンチで薪を使っているところはまだほとんど無いと思います。

やはり初めてやることなので、しっかりとテストキッチンを通して、「どの作業を目の前でやるか」「香りが楽しめる作業は良いが、音が出すぎる作業は裏でやった方が良い」「ずっと目の前に立つと威圧感が出てしまうな」とか、いろんなことを考えながら改善しています。

ここまでの規模、チーム、コンセプトで作り上げた空間はなかなか無いと思います。カウンターで楽しんでいただく薪窯の雰囲気やライブ感も、大林組がこだわり抜いた個室も、フランスの伝統を踏まえつつ新しくルポンドシエルとして解釈した料理も、ぜひ楽しんで頂きたいです。

終盤と思っていた料理人人生における新たなチャレンジ

もう料理人生の終盤と言って差し支えないキャリア、年齢になっている。きっとあっと言う間に時間が過ぎていくでしょう。大林組が大きなチャレンジとして大阪の中心地一大プロジェクトのスペース、たくさんの優秀なスタッフを投入してくださっているので、生涯現役のつもりで向き合っていきたいと思います。